チョコレート
チョコレート






 

久しぶりの休日、今日は家でゆっくり一人の時間を楽しみたい。

外は真っ白な雪景色。窓硝子が結露して涙を流しているわ。

それとは反対に、暖かい部屋で私は自然と顔がほころんでしまう。仕事一筋で生きている私にとって、今日は大事なご褒美の日だから。



準備から楽しんでしまうの。

かわいい赤のチェック柄のランチョンマットを、テーブルの上にそっと敷いてあげる。大事な日にしか使わない特別なモノなのよ。

そしてお気に入りのカップに濃いめの紅茶を入れるの。

そこから立ち昇る湯気が、これから始まる素敵なひと時を想像させてくれて気持ちがワクワクしてくるわ。 

ここで本日の主役の登場。 

淡いピンクのリボンでかわいらしく飾られた、シックなブラウンのちょこんとした小さな箱。

もうこれだけで胸がいっぱい。そしてリボンをほどいてゆっくりと箱を開けるの。

その瞬間、ふわっと広がる甘い香り。

はぁ…

笑顔と共にため息が出た。 

広がった優しい甘い香りの中には、キラキラ光る六つの宝石。いえ、チョコレート。 



まぁるい形のもの

かわいらしくデコレーションされたもの 

桃色でコーティングしてあるもの 

落ち着いたブラックに白いストライプ模様のあるもの 



ひとつひとつ、個性を主張しているチョコレートたち。 

なんだか愛らしくて、目に付いた一個を掌に乗せて転がしてみた。コロコロ、コロコロ。

転がる度に表情を変えて、たまらなくかわいい。

ポイっ

思わず、丸々一個を口の中に放り込んじゃった。その球体を頬張った瞬間、口いっぱいに広がる甘い香り。 

ゆっくり味わうと、だんだんと顔を出すビダーなカカオの風味。ビダーチョコレートをミルクチョコレートで包み込んだ一個だわ。

なんて美味しいのかしら。胸をすくようなこの広がりのある香り。

余韻を味わう暇も無く、ついついもう一つに手を伸ばしてしまう。もったいないから今度は一口では頬張らずに。

パキッ。心地良いチョコレートの割れる音がしたと思ったら、舌の上に広がるとろっとした液体。ウィスキーボンボンだわ。 

嗚呼っ声も出ない。ほろ苦いチョコレートと甘めのウィスキーが絡まりあってたまらないわ。

ここで紅茶を一口。ゆるゆると紅茶がおなかに染み渡る。ウィスキーのせいもあって身体がほっこりしてきて良い気分。

キャラメルチョコレート。抹茶のチョコレート。ラズベリーチョコレート。

一時間のティータイム。六つのチョコレートを、ゆっくり時間をかけて全て味わった。全部美味しくて優しい味だったわ。 

一つ一つ、私に幸せを与えてくれたね。



本当は、毎日まいにち辛くて、心も体もガタガタだった。

どんなに仕事を頑張っても、結局男の人には勝てないし。

同い年の女の子たちはみんな結婚して会社を去ってゆくし。

恋人もいない、仕事も全然ダメ。

そろそろ限界だなぁって思ってて。 

だから無理してお休みをもらって、今日のこのかけがえのない時間を作ったの。

この日のために、好きな紅茶とちょっと高めのチョコレートを用意して。  



でももう大丈夫。

どんなに疲れていても、一つ頬張るとたちまち元気にさせてくれる。



心が温まった。これで頑張れるわ。

仕事も

恋愛も。



チョコレートは恋の媚薬。

恋の媚薬を摂り入れて、チョコレートのように優しい恋人もみつけよう。





おおげさかもしれないけれど

チョコレートがあれば生きていける。





だって、それが女ってイキモノでしょ?





私が私になれる瞬間。



それが、チョコレート。

 













  • back